道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 今住んでいる場所に引っ越した時、一番気に入ったのは駅が近いことであった。今まで最寄り駅から歩いて10分とか15分なんてところにばかり住んでいたので、1分程で駅に着いてしまうというのはちょっと信じられなかった。そういうと随分賑やかな場所に住んでいると思われるかもしれないけれど、そんなことはない。周辺はただの住宅地で、駅前商店街はおろか、スーパーマーケットさえないひっそりとしたところなのである。そして駅そのものも「いい旅夢気分」に出てきそうな素朴な佇まいである。はじめて降りた人は、「ここは東京か?」と不安になるくらい素朴である。
 しかし、その歩いて一分の駅を通勤に使うことはなかった。勤務先に向かうには、その駅を通り越して10分ほど歩いたところにある別の駅のほうが便利だったからである。毎朝その駅を横目で見ながら、ここから乗れたらどんなに楽だろうと思っていた。ところが最近勤務先が変わって、ついにその駅を通勤に使うようになった。やっと駅から1分の場所に住んだ有難さを実感できる時がやってきたのである。僕はいそいそと新しい定期券を買いに行った。
 その駅を通っているのは大井町線である。大井町二子玉川という比較的短い区間を走っている。他の多くの都心へ向かう電車と違って、山手線と接続していないし、そのまま地下鉄に乗り入れているわけでもない。自由が丘と二子玉川というオシャレな町を通っているにもかかわらず、車内の雰囲気はのんびりとしている。それはやはり大井町を基点にしているせいかもしれない。その上、ホームが短くてはじっこの車両のドアが開かない駅が二つもある。なんというかローカルな雰囲気が漂う路線である。通勤先の品川から殺伐とした雰囲気の京浜東北線に乗って、大井町で乗り換えるとなんとなく家に着いたような気分になる。おらが町の電車といったところである。
 初めて東京に出てきた時に、「ぴあマップ」についていた路線図で大井町線を見て、こんな意味のなさそうな路線を使う人はいるのだろうかと思ったことを記憶している。その意味のなさそうな路線に自分が乗ることになるとは思いもしなかった。
 そんな大井町線も急行が走ることになるという。今のようなのんびりとした雰囲気は、やがて失われてしまうかもしれない。そんなに何もかもスピードアップしなくてもよいと思うのだけれど。