道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 六月の第二週から仕事場が移転した。今までは東京タワーの近くだったのが、芝浦に移ることになった。まあそんなに遠い場所というわけではないのだけれど、通勤ルートも変わるし、環境も変わるしで、ちょっと落ち着かない気分である。
 移転先のビルは駅からかなり歩く。ちょうど田町駅と品川駅の中間くらいで、僕は品川駅から歩くことにした。何年か前から品川駅周辺は再開発が進んでおり、芝浦側に出ると、様々な形をした高層ビルが林立している。道路や公園も整備され、随分おしゃれなイメージである。そんな中を僕は足早に通り抜ける。僕が働くビルへの道のりは遠い。
 芝浦は埋立地である。やれウォーターフロントだ運河だなんて気取ったって、要は海をドカドカ埋め立てて、平らにしただけの場所である。だからひたすら平坦である。何というか索漠とした景観である。綺麗に整備されているのだけれど、歩いていてちっとも楽しくない。その最大の理由は、そこが「町」ではないからである。民家というものが全くない。当然商店街だってない。人の暮らしの匂いがしてこない。そういうものはすべてビルの中に格納されてしまっているのだ。だからいくら高層マンションを建てて人口が増えたところでそこが町になることはない。それが新しい都市生活だというのなら、そういうものだと思うしかないけれど、僕はできれば、もう少しゴミゴミした町に暮らしたい。
 トラックが行き交う一本道をひたすら歩いて、「運河」と呼ばれるドブ川を渡ると、ようやく目指すビルが見えてくる。周囲には店らしきものはない。だから昼時になると、移動式の弁当屋がずらりと並ぶ。そして道路はそこらじゅうのオフィスビルからあふれ出たビジネスマンでいっぱいになる。学生もいない。近所のおばちゃんもいない。すべてビジネスマンである。自分もその一人ではあるのだけれど、かなりうんざりする。だから僕は町らしいものが出てくるところまで歩いて食事をとることにしている。駅までの行き帰りも考えると結構な距離を歩いていることになる。そんな日々にも、そのうちに慣れるのだろうか。まあ、慣れるのだろう。とりあえず当面の目標は、居心地のよい喫茶店を見つけることと、喫煙室からの眺めの中に心和む光景を見つけることである。かなりの難題ではあるけれど。