道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 林を抜けると、突然海が開けた。人気のない砂浜の真ん中に、使われなくなって久しいと思われるコンクリートの桟橋があり、エメラルドグリーンの波がその横腹を静かに洗っている。その先には見渡す限りの海が広がっている。
 ここが、終点だと彼は感じる。とうとうやって来た。ここから先に辿るべき道はない。彼は旅の終点が自分のイメージどおりだったことに満足している。そして桟橋の先端までゆっくりと歩く。そこに腰を下ろし、波の音を聴く。波はまるで人間の営みなどに興味はないといった様子で、繰り返し寄せては返す。そして彼は突然激しい孤独を感じる。人々はずっと昔にここを去ってしまった。いったいどこへ行ってしまったのだろう。この海の向こうへ、だろうか。それではここは終点ではないのだろうか。長い時間をかけて辿り着いたこの場所に、自分は取り残されただけなのではないか。彼はあたりを見渡す。遠くの砂浜に、古びたカヌーが打ち捨てられている。まだ使えるだろうか。彼は砂を蹴って走り出す。はたして彼らに追いつくだけの時間は残っているのだろうか。
 カヌーの中で一人の男が眠っていた。彼の足音に目を覚ましたその男は、のろのろと体を起こし、大きなあくびを済ませてから、「一時間で三千円だけんども、いいかね」と言った。彼はポケットから小銭をかき集め、その男の手の中に押し込むと、カヌーに乗り込み、力の限り漕ぎ始めた。次第に砂浜から遠ざかっていく彼の背中に、その男は怒鳴った。「きっちり一時間だよ!一分でも超えたら、超過料金がかかるからね。」そして小銭を数えながら、林の中にある小屋に向かって歩き始めた。
 手早く荷物をまとめると、その男は林の中を歩き始めた。「やれやれ、これでやっと帰れる。まったく俺としたことが、どうしてあんな気分になっちまったのかね。まぁ、この景色を見たら、誰だって勘違いしたくもなるってもんさ。海は男のロマンだからねぇ。」
 彼はカヌーの中で眠っている。次第に足音が近づいてくる。ゆっくりと体を起こし、大きなあくびをして、彼は言う。「一時間で四千円だけど、かまわないかね。」