道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 その日は次第に天気が悪くなるという予報だったので、僕らは早々にホテルをチェックアウトすると、バスに乗って芦ノ湖へ向かった。箱根は複数の会社のバスが走っていて、僕らが乗ったバスはフリーパスが使えない。おかげで空いていたのはいいが、あちこちのバス停からフリーパスで乗ろうとした客が、冷たく断られていて少し可哀想だった。
 バスを乗り換えて箱根園に向かった。芦ノ湖のほとりにあるレジャーランドである。ホテルを中心にして、ゴルフ場、水族館、土産物屋などが集まっている。ここは鉄道やホテルでお馴染みの某グループが経営している。僕らは駒ケ岳へ登るロープーウエイに乗りに来ただけなのだが、寂れた観光地特有の空地が濃厚に漂っていて、物悲しい気分になった。たぶん天気や、季節によって印象は変わってくるのだろうが、寒空の下で乗る人もいない白鳥のボートが寂しげに揺れていた。
 駒ケ岳から下りてくると、空は一面灰色の雲に覆われていて、冷たい風が吹き始めていた。僕らは遊覧船で元箱根まで移動して、昼食を食べることにした。船を下りると目の前に見慣れない巨大なガラス張りの建物が姿を現した。有名なイタリアンレストランの箱根店であるという。テラス席もあり、芦ノ湖を眺めながら地の食材をつかった美味しいイタリアンをということであるらしいが、周囲の町並みとあまりにかけ離れたその雰囲気にはかなり違和感がある。僕の予想ではきっと全席禁煙である。そんな店に入る気にはなれない。
 ガイドブックを見ていると、箱根は見どころ満載のオシャレな観光地という印象を受けるけれど、実際は有名な観光地特有の無秩序な開発の結果、どこもかしこも中途半端な雰囲気になってしまっている。僕らが愛好している古いリゾートホテルの目の前にも、巨大なクレーンが聳え立っていた。何を作ったところで、飽きられたらそれきりである。しばらくするとまたクレーンが立ち並び、土埃を上げて巨大なトラックが行き来するようになるだろう。いつまでたっても訪れる人は落ち着いた気分を味わうことができない。景勝地であればなおさらである。
 僕らはガラス張りのイタリアンレストランの隣あるそば屋へ入り、座敷で暖かい料理を食べ、窓の向こうのテラス席で、寒そうにイタリアンを食べている人々を眺めながらゆっくりと煙草を吸った。