僕は子供の頃から朝が苦手だった。起きられないとか、遅刻するといったことではなく、家を出るまでに済ませておかなければいけないこと全般が苦手だったのである。
まず顔を洗うことが嫌いだった。こっそり洗ったふりをして済ませることが多く、時々バレて母親に怒られた。次に朝食を食べるのが嫌いだった。あまり同意してくれる人に出会ったことがないのだが、目は覚めていても体がまだ起きていない状態で朝食を食べるということが僕には苦痛であった。味も良くわからないし、消化器官も「えーと、今そんなに入ってこられても心の準備が……」といった感じである。そんな調子だから、当然トイレに行っても出るものも出ない。でも時間は待ってくれないので、仕方なく学校へ行く。すると通学途中で、あるいは学校についてからお腹が痛くなる。ということの繰り返しだった。そんなわけで、東京に出てきてからはこれ幸いと、全く朝食を食べなくなってしまった。体に良くないということは聞いていたけれど、とても食べる気力が沸いて来ない。するとますます体が起きない。当然出るものも出ない。通勤電車に乗る。お腹痛くなる。途中下車してトイレに行く。空いていない。脂汗がにじむ……。それはある意味地獄の日々であった。
それが最近はちょっと様子が変わってきた。まず、朝お腹が痛くなることが少なくなった。それでちょっと何か食べてみようかという気になってきた。最近は小さなパン一個くらいなら食べられるようになった。これは大きな進歩である。そのうちご飯に味噌汁に納豆にアジの開きなんていう豪華な朝食が食べられるようになるかもしれない。まあ、それを食べるためには他の様々な問題をクリアする必要があるけれど。
もっと早く起きて、余裕を持って準備をすればいいのかもしれないが、やはり少しでも多く眠りたいし、あまり時間があって仕事に行きたくなくなっても困る。ちょっと寝ぼけているくらいのほうが余計なこと考えずに出掛けられていいかもしれない。後はトイレに座ったら条件反射的に立派なのが出てくるようになればそれで満足である。でもたまにそういう朝に恵まれるととてつもなく幸せな気分になるので、今のままでいいのかもしれない。幸せの尺度って難しいですね。
少なくとも、ジョギングして、シャワー浴びて、野菜ジュース飲みながら朝刊にゆっくり目を通すなんて朝を、僕は望んでいません。いや、本当に。