道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 熱海といえば、温泉・芸者・宴会といったイメージで、ひと昔前までは一大観光地として名を馳せた場所である。それがいつの頃からか、すっかり寂れてしまったという話を聞くようになった。世の中が不景気になったからだとか、時代のニーズに合わなくなったとか言うことらしい。少なくとも僕が温泉へ行くことに興味を持ち始めた頃、「熱海=ダサい」というイメージがすっかり定着していた。だから僕の選択肢の中から完全に除外され続けていたのである。
 ところが、最近になって熱海が随分と良くなっているという話を聞くようになった。巨大な宴会温泉旅館が減り、オシャレな宿が増えているという。もともと東京からのアクセスは抜群である。そして温泉もあり、海もある。次第に僕は温泉を探す時に、熱海を選択肢に加えるようになった。
 今回は残念ながら熱海の宿には泊まらなかったのであるが、初島に遊びに行くことになり、生まれてはじめて熱海駅に降り立った。駅前の様子は、やはり時代に取り残された観光地といった印象で、古いビルや土産物屋が並んでいる。駅前からバスに乗って、港まで移動する間の風景も似たようなものである。ただ、あちこちで大規模な工事を行っていて、今まさに生まれ変わっている最中なのかもしれない。
 港に着くと、初島行きのフェリーに乗り込んだ。チケット売り場の暗い雰囲気の女性が、不吉な予言のように「本日は波が高いので、船が揺れます」と呟いたとおり、フェリーは控えめなジェットコースター程度に揺れた。幸いなことに僕らは酔わなかったけれど、後ろの座席に座っていたおばあさんは、ビニール袋に顔を埋め続けていた。
 無事初島に辿り着き、これも新しく開発されたと思われる「初島アイランドリゾート」を訪れた。南国風の木々や花に囲まれた芝生の広場にテーブルとハンモックが点在している。その一角に腰を下ろし、ハンモックに揺られているのはなかなかいい気分であった。ただし、季節と天候を選ばないとつらいかもしれない。決して常夏の島ではないのだ。
島から戻って、熱海の駅前の土産物屋をひやかした。観光地には必ずいる、したたかで狡猾なおばあちゃんと話をしながら、手頃な干物を買い求めた。こういう胡散臭い雰囲気も、それはそれで観光地の醍醐味である。オシャレなリゾートに生まれ変わっても、どうかしぶとく生き残ってほしい。
 家に帰って食べた干物は、意外に美味だった。熱海の底力を見た思いがした。