道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 20年以上前の話になるが、まだコタンが四谷にあった頃、僕はまだ駆け出しのペーペーで、先輩達の前で必死に歌っていた。リハーサルから開場までの間、その先輩達と話す機会があるのだが、人見知りでおまけにプライドの高い僕は、あまり話をしなかった。その先輩達の中でもひときわ異彩を放っている男がいた。茶髪で長髪、派手な衣装、そして唯一無二の歌声と、素晴らしい楽曲。知らん顔をしながら、僕はその男に激しく惹かれ、そして嫉妬した。彼の名前をSという。
 それがひょんなことから一緒にバンドを組むことになった。いざ付き合い出してみるとなかなか面白い男で、妙にウマが合った。そして、そのバンドで僕は主に楽曲を作り、Sがボーカルをとった。それは僕にとってとても楽しいことだった。あの声を使って、どんな曲を歌わせようか。ワクワクしながら曲を作った。
しかし、Sの人生は常にトラブルが付きまとっていた。それは主に彼の気の弱さと酒に起因していたと思う。私生活のトラブル、仕事のトラブル、そういったものに耐えられず、Sは音楽を捨て、姿をくらましてしまった。それから10年近く経った。
 人づてにSがまたバンドをやりたがっているという話を聞いた。ほかのメンバーもそれならやろうじゃないかということになった。僕はSに連絡を取り、会って話をした。久しぶり会ったSは、思ったほど変わっていなかった。いろいろとわだかまりがあるようだが、とにかくやってみようかという話になった。そしてスタジオに集まって練習した。それはとても楽しい時間だったが、Sがいつもべろんべろんに酔っぱらって来るのが気になった。もともといつも酔っぱらっている男だったが、以前より酒に吞まれている感じがした。それでも何とかライブをやったのだが、そこで歌っていたのは、以前のSとは別の男だった。鋭かった視線は宙を泳ぎ、突き刺すようだった歌声は呂律が回っていなかった。僕はSの横でギターを弾きながら、とても悲しい気分になった。
 僕たちは機械じゃない。歳もとるし、調子の良し悪しもある。歌を地で行くような人生もあれば、そうではない人生もある。いくら才能があっても、それを活かせる人と活かせない人がいる。そんなことはわかっている。でも、僕はSのことを一般論で片付けることができない。じゃあどうすればいいのか。その答えが見つからなくて、今、途方に暮れている。