道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 新しい職場に出勤する初日の朝は、台風の影響でダイヤが大幅に乱れており、予定のルートではとても約束の時間に間に合いそうになかった。僕は慌てて迂回路を検索し、早目に家を出て、何とか間に合った。結局、待ち合わせしていた担当者が遅刻してきて、20分ほど待たされることになった。郊外の駅前のロータリーで、僕はぼんやりベンチに座っていた。
 その駅は、最近次々とタワーマンションが建って、急激に人口が増えたことで有名になったところである。確かにあたりを見回すと、真新しいマンションが聳え立っている。そして、駅の改札にはそのマンションの住人達が出勤するための長い行列ができている。行きも帰りも逆方向であることに僕は安堵した。もともと僕は列に並ぶのが嫌いである。もし毎朝こんな行列に並んで出勤する羽目になったらと思うとぞっとする。大体、空き地にドンドンドンとタワーマンションをおっ建てて、「はい、どうぞ」なんて言われても絶対に住みたくない。僕は商店街(それがどんなに寂れていても)がない町を認めない。まあ、僕が認めなくても誰も困らないのだけれど。
 そして、そのマンション群の向こうに、僕が働くオフィスビルが聳え立っている。「未来少年コナン」に出てくる三角塔のような近未来的なビルである。その入り口には、セキュリティゲートがあり、大勢のサラリーマン達が、IDカードをかざしてゲートをくぐり、整然と列を作って、エレベーターのドアが開くのを待っている。エレベーターはガラス張りでとても静かだ。次々に到着して、大勢の人を各執務フロアへと運んでいく。広々としたカフェテリア(社員食堂)もあって、ここもガラス張りで見晴らしがよい。そこを案内してもらっている時に、窓の向こうの空き地に工事現場のように無造作に鉄板で囲われた場所が見えた。当然屋根はついていない。そして何故かその中にぎっしりとサラリーマンが詰め込まれている。案内してくれた人に訊いてみると、「ああ、あそこは喫煙所ですよ」と教えてくれた。おしゃれなカフェテリアとのあまりの落差に僕は唖然とした。そうか、あの囲いの中に僕も入って煙草を吸うことになるのかと、少し憂鬱な気分になった。案内してくれた人も喫煙者らしく、「夏は日焼けします。雨の日はつらいです。」と呟いた。
 ともあれ、新しい仕事が始まるのである。この環境にも次第に慣れていくことだろう。
 まあ、やってみるさ。