道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 ライプハウスコタンを取り巻く人々は、店の歴史と共に歳を重ねてきた。ということはつまり、新陳代謝が上手くいっていないということでもある。それは店の経営にとってはあまり好ましいことではない。しかしいい面だってもちろんある。それは仲間たちがより深く結ばれていくということだ。出演者、スタッフ、そして客。それらの垣根を越えて人間同士の付き合いになって行く。それはある意味「村社会」であることを意味する。若い頃はその雰囲気に嫌気がさしたこともあったけれど、しだいにそれもいいかと思うようになった。居心地の良い場所というのはあって損するものでもない。

 歳を重ねてくれば、当然体調を崩す人も増えてくる。ましてや品行方正とは言い難いミュージシャンの集まりである。危うく一命をとり止めた人だって結構いる。今でも病と闘いながらステージに立っている人もいる。もちろん、ステージに立てなくなった人だっている。

 店長の木村さんが倒れて救急車で運ばれ、緊急手術を受けて闘病中という話を聞いたのは10月のことである。その後しばらくは店長抜きで店を回していた。今後の見通しも全く不透明である。切れ切れに入ってくる情報では、どうにか一命をとり止めたという程度しかわからない。そして、11月の僕のライブの日がやって来た。相変わらず情報のないまま、僕は準備をして店に向かった。

 何となく(嫌な?)予感はしていた。店の扉を開けると、そこには煙草をくわえた木村さんがドンと座っていた。以前と変わらない光景である。聞けば退院したばかりだという。相変わらず無謀な人だ。しかし、動けるのなら店に出る人である。そして、そう決めたら誰の言うことも聞かないだろう。

 その日の出演者はやはり生死の境を彷徨った人で、お互いの病気の話で盛り上がっている。幸い僕はまだ死の淵を覗いたことはないので、大人しく経験者の話を拝聴している。ここにいるのは死の淵を覗いて帰ってきた人たちである。帰れなかった人たちだってもちろんいる。僕はそんな人たちの顔を思い出している。木村さんの豪快な笑い声が響いている。

 生きている者たちは、前に進まなければいけない。前に進むということは、死に向かって進むということだ。ただし自分のゴールまでの正確な距離を知っている人はいない。それは幸運なことでもあり、不幸なことでもある。仕方がないので、僕らは知らんぷりをして歩き続けるのである。