道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 正月に実家へ帰って、何ということもなくだらだら過ごして、東京へ戻る日になった。早めに実家を出て、松本で少しぶらぶらすることにした。松本は高校時代を過ごした街で、時々懐かしくなって歩いてみることがある。そしてその度に時の流れを痛感させられる。当時よく使っていた店がなくなっていたり、繁華街が全然違う場所にできていたりして、何だか呆然としてしまう。元々観光地としての側面は少なからずあったのだが、近年特にその色合いが濃くなった。町並みは城下町としての景観に統一され、立派な歩道が整備されている。そぞろ歩く観光客も以前より増えているようだ。そしてその結果、どこかで見たような観光地の仲間入りを果たしつつあるように見える。そこで暮らしている人々の息遣いのようなものは、当然影を潜めていく。ある意味、正しく変化しているのかもしれない。
 地元で暮らしていた頃は、どちらかというと観光客というのは邪魔なだけの存在であった。店は混むし、道は歩きにくいしでいいことはひとつもなかった。そしてその頃から観光客のメッカとして知られる「まるも」という喫茶店があった。ガイドブックにも必ず載っていたし、有名な小説家が立ち寄って、エッセイに登場したりしていたらしい。そうなるとひねくれた地元民である我々は、毛嫌いすることになる。行ってもいないのに、「あそこのコーヒーはまずいよ」とか「店員の態度が生意気だ」とか言って、他に自分たちの贔屓の喫茶店を探して、そこにたむろするようになる。実際、その当時は他にもいい喫茶店がいくつもあって、特に不満は感じなかった。
 ところがそれらの喫茶店が次々になくなった今では、我々旧地元民が訪れることができる店がほとんどない。というわけで、今回初めてその「まるも」へ行ってみることにした。そして実際に入ってみれば、なかなか悪くない。居心地はいいし、店員の態度も悪くないし、コーヒーだって結構おいしいのである。そしてガイドブックを熟読している観光客を見ても、別になんとも思わない。我々だってもう観光客みたいなものなのである。
 きれいになった街を駅に向かって歩きながら、僕は当時のことをあれこれと思い出していた。それは変わらず僕の中にあって、何かのきっかけで僕が訪れるのを静かに待っているのだ。
 少なくとも、僕がこの世からいなくなるまでの間は。