道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 我々は天城山中を必死の形相で行軍していた。
 前日は温泉旅館でのんびりと寛いでいたはずである。その日は旅館をチェックアウトし、温泉街の遊歩道を散策していた。静かな渓流沿いの道をのんびり歩いていたはずである。それからパスに乗って近くの滝を見に行くことにしていた。「浄蓮の滝」というガイドブックにも乗っている有名な滝である。それであとは土産物屋でも覗いて帰るつもりでいた。のんびりしに来たのだから、無理にスケジュールを詰め込むことはない。そんなふうに考えていた。
 遊歩道はあちこちに案内図があって、とても歩きやすくできていた。その案内図の中に、我々は「浄蓮の滝まで2.5Km」という表示を見つけてしまった。2.5Km?歩けるんじゃないか?そんな考えが脳裏をかすめた。冬晴れの気持ちの良い朝である。森林浴をかねて歩いてみるのも悪くない。そんな軽い気持ちで歩き出した。
 しばらく歩いて、少し後悔しはじめた。ここは平地ではない。山の中を2.5Km歩くのは結構ハードかもしれない。それでも景色は綺麗だし、空気も美味しいし、時間もたっぷりあるので休み休み行くことにした。時々立ち止まっては写真を撮ったり、煙草を吸ったりした。
 案内板に表示された距離は、少しずつ短くなっていった。そしてそれにあわせて道はどんどん険しくなっていった。細いはしごを昇ったり、板を渡しただけの橋を渡ったりした。そして川辺の小さな公園のようなところを最後に、道らしきものがなくなってしまった。目の前には賽の河原のような荒涼とした景色が広がるばかりである。しかし今さら戻ることもできない。見当をつけて歩いていくと、獣道のようなところを見つけた。道の脇に「落石注意」という傾いた立て札がある。断じて進め、そう自分に言い聞かせながら踏み込んでいった。もう森林浴どころではない。我々は喘ぎながら一歩一歩昇っていた。
 しばらくして突然視界が開けた。そこには広い道路があり、車が行き交っている。民家や店が立ち並んでいる、どこにでもある普通の町の光景である。何となく釈然としないまましばらく歩いていくと、広い駐車場があり、周りを土産物屋と食堂が取り囲んでいる。「歓迎 浄蓮の滝」というアーチ状の看板がそびえ立っている。スピーカーから場違いなポップソングが聞こえてくる。我々は滝を見物し、早々にひきあげた。
帰りはバスに乗ってあっという間に駅まで戻ってきた。