道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 田園調布の駅前はとても上品であった。コンビニエンスストアもなく、チェーン店の居酒屋もなく、もちろんファーストフード(和洋ともに)もない。ゆったりとしていて、高い建物がなく、高級そうなパン屋、ではなくベーカリーと、カフェが並んでいる。脇道を覗いてみても、ひっそりとした料理屋らしきものが点在しているだけである。さすが高級住宅地である。乗降客もどことなく品が良いように見える。
 少し離れたところに、控えめなバスターミナルがある。バスは静かにやってきて、上品な人たちを少しだけ乗せて、上品に走り去っていく。そんなバスターミナルに、あまり上品でない一画がある。停まっているバスは人でいっぱいで、それでも乗り切れない人たちが長蛇の列を作っている。皆一様にうんざりした表情を浮かべ、ベンチもないので花壇の縁に腰掛けたりしている。そして僕らもその列に加わることになる。
 そこは、郊外の大型インテリアショップへ向かう無料送迎バスの発着場である。その店はデザインも良く、価格もかなり安い。そこへ向かう無料送迎バスであるから、当然若者と庶民が集まることになる。だから何故田園調布であるのかがよくわからない。住民から苦情は出ないのだろうか。
 満員になったバスは長い行列を残してさっさと出発してしまい、次のバスを待つことになった。僕は列を抜け出し、駅前の高級ベーカリーで高級なパンを、唯一落ち着く駅の売店でミネラルウォーターを買って、行列に戻って昼食を済ませた。あまり行儀は良くないが、この際仕方がない。庶民には庶民のやり方があるのだ。そしてやっと乗れた次のバスで店に到着すると、何とまた入り口に長い行列ができている。誰も説明してくれないので、近くに立っている警備員に聞くと、人が多すぎて入場制限をしているという。そしてやっと入った店内はもちろん人だらけで、すでに相当消耗しているのでゆっくり見て歩く気力もない。買い物を済ませて、重たい家具を抱え(無料バス組は勿論送料など払う気はない)、再びバス停に向かうとやはり長蛇の列で、また一本見送ることになった。もう食料を調達する気力も残ってない。
 再び田園調布である。疲れ切って大きな家具を抱えて駅へ向かう我々を、地元の人々はさぞ不思議そうに眺めていたことだろう。「何故あんなものを抱えて電車に乗るのかしら。車で運べばいいのに」と。まあ、そんなことを気にする余裕はないので、どうでもいいのだけれど。