道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

東京に来てから随分といろんな街に住んできたけれど、そしてそのどれもが繁華街とは言い難いところだったけれど、いつも不思議に思っているのは、どんな寂れた所でもそれなりに商店街らしきものがあって、そして必ず「スナック」と呼ばれるような飲み屋があるということである。それらはいずれも古びた雑居ビルの一階にあって、くたびれた看板を店先に並べ、メニューも無く、ひっそりと営業している。そして外からは決して中の様子を窺い知ることはできない。客がいるのかいないのか、繁盛しているのかそうでないのか、さっぱり分からないのだけれど、決してなくなることは無い。そして本当にそんなに必要なのかと思うほどよく見かけるのである。
僕は普段の生活の中で、スナックに入るという可能性は全く無い。それでも何度か機会があって覗いてみたことはある。大抵店内は薄暗く、安物のソファはクッションが死にかけていてところどころビニールテープで補修してある。片隅にカラオケセットとテレビがあり、客が歌っていないときはナイターを映している。酒や料理はあくまでも必要最低限のものしかなく、ほとんどの客がビールか水割りである。そしてどの店も不思議にそれなりに客が入っているのである。勿論、通りすがりの客などいない。大抵の客が顔見知りで、近所に住んでいる人か、近所で他の商売をしている人たちである。まあ言ってみれば酒の飲める小さな公民館みたいなものである。そういう場所に参加したいかと聞かれたら、僕の答えはNOである。少なくとも今のところは。
今僕が住んでいる家の近所にも一軒のスナックがある。その店が典型的なスナックと少し違うところは、窓がたくさんあって中の様子がわかることと、店内に何故かギターやドラムセットが置かれていることである。駅からの帰り道にあるので、通りかかるとつい中を見るとはなしに見てしまうのだが、中で繰り広げられている光景は典型的なスナックのそれであり、ライブ演奏をしているような気配は全く無い。どうやらそれらはただの飾りのようである。そう思っていたある日、その店の前を通ると突然ドラムやギターの音が聞こえてきた。驚いて中を覗くと生演奏をしている。しかしマイクを握って歌っているのは酔っ払った客である。どうやら生伴奏のカラオケであるらしい。何だかよく分からない店である。オーナーが元ミュージシャンだったりしたら相当怖い。
僕がその店に足を踏み入れることはないだろう。その店では普通のスナック以上にディープで出口のない世界が繰り広げられているような気がするから。