道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 「えー、本日はお忙しいところお集まりいただきまして、誠に有難く思っております………。」既にビールで真っ赤になった叔父は、おもむろに立ち上がると挨拶を始めた。ごく近しい親族だけで行われた法事の後の宴席でのことである。立場上、当然のことなのであるが、みんな何となく笑いをこらえたような顔で見守っている。
彼の父親、つまり僕の祖父は、大の演説好きで有名だったそうである。仕事上そういう立場にあったせいもあるのだろうが、毎朝トイレの中で大声で演説の練習をしていたらしい。その当時の人にしては体も大きく、だみ声で、まだ小さかった僕らを前にして、政治やら経済やらのことについて滔々と語っていたことを記憶している。子供心に「迫力のある人だなあ」と思っていたものだ。
 そのたった一人の男の子供であった叔父は、小さい頃からずいぶん厳しく育てられたらしく、その反動で若い頃はちょっとグレていたようだ。それでも結婚して、両親がいなくなって、一家の長となってからは、それなりの風格も出てきたように思える。祖父とはタイプが違うのだが、人好きのする気さくな人で、最終的には人の上に立つ仕事をするようになり、最近無事定年を迎えた。僕の顔を見るたびに「おい、音楽のほうはモノになったか」とか「横断幕もって応援に行くぞ」なんて言うような、まあ、典型的な気のいい田舎のおじさんである。
 今回の法事についても、いろいろと段取りが悪いところがあり、それでも「まあ、あの人のことだから」という感じで皆笑って済ませているようなところがあった。それはそれで人徳というものだろう。しかし60歳を過ぎて、人の上に立つ仕事をしてきた今でも、何となく自分がその場の中心にいるということが、いかにも居心地が悪そうである。そのせいか、しきりに酒を飲み、ますます顔が赤くなっていく。集まった人間が皆ほとんど酒を飲まないせいで、田舎風の宴会にならないので調子が出ないのかもしれない。酔っ払って歌でも始まれば随分気が楽になったかもしれないが、唯一酒の相手をするのが僕だけではどうにもならない。
 この宴席が終わり、皆が帰った後、彼は自宅のコタツでひっくり返っていることだろう。そもそも、そんなに酒に強い人でもないのである。
 「えー、思い起こしてみれば、私の父が他界した時………。」彼の長い挨拶はまだ続いている。