道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 ゴールデンウイーク最終日は生憎の雨になった。僕らは上諏訪温泉の旅館で朝食を済ませ、ロビーのラウンジでコーヒーを飲みながら、新緑の庭園をぼんやりと眺めていた。帰りの電車の時間まではまだ2時間以上はある。どうやって時間をつぶそうかと思案していた。自然を売り物にしている観光地は、天候に大きく左右されてしまう。その上、ここ上諏訪諏訪湖と温泉があるせいで安心してしまったのか、観光地としての施設が充実していない。前日、駅を出たときにも、あまりに普通の町並みであることに、ちょっとびっくりしたくらいである。何せ、駅の改札が一箇所で、それが諏訪湖と温泉街の反対側であるというのだから、いかに観光開発に関心がないかよくわかる。そういう町は嫌いではないのだが、こういう状況に陥った時はやはり不便である。
 結局、せっかく来たのだからということで、諏訪湖遊覧船に乗ってみる。巨大な白鳥の形をしたその船は、同じような境遇の観光客を何組か乗せて、灰色の湖面を進み始めた。歴史を感じさせる内装はともかく、老人の力のない咳のようなエンジン音が不安である。おまけに巨大な白鳥の首で、前方の視界は完全に遮られている。仕方がないので、僕は30分余りの遊覧時間の大半を、前の席に陣取った外国人の親子を観察することに費やした。
 何とか無事に戻ってきた遊覧船を降りると、宿のロビーに置いてあったパンフレットに載っていた、「片倉館」というところに行ってみることにした。昭和3年に建てられた古い洋館風の施設で、資料館か美術館のような外観なのだが、実は温泉施設であるという。実際に行ってみると着替えやらタオルやらを抱えた地元の人たちが次々に入っていく。恐る恐る中に入ると、古い銭湯といった趣で、受付と大浴場と休憩室があるだけである。ただ、洋風建築の内装はなかなか立派で、大理石造りの大浴場にはそこかしこに彫像が飾られており、柱や照明、窓枠なども歴史を感じさせる。しかし、利用客はそういったことに全く興味を示さないで、普通にお湯に浸かり、休憩室でお弁当を広げたり、昼寝をしているのが興味深い。何より雨で冷えた体を、たっぷりとした温泉に沈める気分は何とも言えない。僕はすっかり上機嫌になり、それまでの上諏訪に対する印象まで変わってしまった。
帰りの電車の窓から霞む山々を眺めながら、僕は心地よい疲労感を味わっていた。さて、明日からまた仕事の日々である。