道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 会社の近くに有名な牛丼チェーン店がある。狂牛病騒ぎの時に、頑なにアメリカ産牛肉にこだわって話題になった店である。一般的には数ある牛丼チェーンの中でも、この店の牛丼を評価する人が多いようである。しかし僕はこの店の牛丼はあまり好きではない。僕の中では牛丼というのは、もっと大雑把なものである。形も不揃いなクズ肉のようなところを適当に煮込んで丼飯にぶっかけましたというイメージがある。だからこの店の牛丼は、僕にとっては味も見た目も少々上品な感じがする。だからといってかしこまって食べるものでもない。何となく中途半端なのである。
 そんな牛丼屋に僕が行くようになったのは、牛丼以外のメニューが増えたからである。いざ行き出してみると、早いし安いしで、やはり重宝する。気がついたら、週に二・三度は通うようになっていた。もう立派な常連客である。
 近所に他のチェーン店がないせいもあって、この店には何となくのんびりとした空気が漂っていた。店員も年配のおばさんばかりで、昼時のピーク時には注文が滞ったり、間違ったりすることがしばしばあった。それでも彼女たちのペースは一行に変化することなく、僕もいつの間にかそのペースに巻き込まれてしまっていた。
 ところが、近所に別のチェーン店が出店してから、ちょっと様子が変わってきた。まず一時的にではあるが、やたらと割引券を配るようになった。当然客はそれを利用するわけで、彼女たちは会計時に混乱する羽目になった。それからセットメニューが導入された。その結果Aセット、Bセットといった注文と従来どおりの注文方法が混在することになり、彼女たちの混迷は更に深まっていった。そしてとどめはファミリーリストランのようなタッチパネル式の注文入力端末の導入である。これにより彼女たちのリズムは完全に崩壊した。指はパネルの上をあてどなく彷徨い、声を張り上げる必要のなくなった店内は重苦しい沈黙で満たされた。僕らはそんな空気に耐えながら、無事に自分の頼んだ品が届くのを祈っていた。
 しかし彼女たちは挫けなかった。声で注文を伝えてからパネルを操作するという方式を編み出したのである。店内の秩序は回復された。変化や効率化も大事だが、変わらないものからくる安心感も大事である。やはり牛丼の並を頼んだら「並一丁!」という声が聞こえるべきではないかと僕は思うのである。