道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 それは9月1日火曜日の朝のこと
である。僕の二代目の部下である年配のおじさんが、朝礼の前に管理職の人たちと楽しげに世間話をしていた。前回の人と違って、今度のおじさんは気さくで大雑把な人である。コミュニケーションはしやすいのだが、放っておくと何気ない顔でテキトーなことをやってしまうので、油断がならない。それでも慣れない仕事を一応真剣に覚えようとしてくれてはいる。
さて、その朝の世間話の際、彼の何気ない一言が、その場の空気を一変させてしまった。彼は笑いながらこう言ったのである。「いゃあ、うちの息子が新型インフルエンザにかかっちゃってねえ」と。
 感染者が増加する中、僕が働く会社でも様々な対策を講じているのだが、その中に「同居する家族が新型インフルエンザに感染したことが判明した場合、判明した当日から一週間の出社停止とする」という条項がある。つまり、家族の感染が判明した時点から出社してはいけないのである。話を聞くと、どうも彼の息子の感染が判明したのは、前の週の金曜日であるらしい。部長があわてて関連部署に連絡をとり、彼は即時退社となった。「別にオレはかかってないと思うんだけどなぁ」と不満げな顔で彼は帰っていった。それから彼の机のまわりとドアノブなどに殺菌消毒スプレーが散布された。
 確かに会社の対策には、ちょっと大げさすぎるという感想を持つ人が少なくない。朝礼でそれが発表された時には、失笑が漏れたくらいである。ところが、いざ自分の周りで現実に発生してみると、みんなの態度がガラリと変わってしまった。近くの席で仕事をしていた人たちは、自分が感染したのではないかと心配し始め、知らん顔で会社に来ていた彼のことを非難するようになった。ちょっとでも咳き込んだりすると、みんながそっちを振りむいたりする。家族が感染したのに、黙って会社に来ている人がいる可能性だって否定できない。なにしろ潜伏期間があるので、しばらく様子を見ないと新たな感染が確認できないというのが厄介である。どこまでが必要なことで、どこからが行き過ぎなことなのかが判断できなくなってくる。
 彼はそのまま自宅待機を続けたが、結局発症せず、来週から出社することになった。彼にしてみれば無駄な一週間だったかもしれない。しかし彼の出社停止によって、我々の危機意識が高まったことは事実である。
 手探りの日々は、当分続きそうだ。