道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 冷たい雨の降る一月の午後、僕は人気のない公園のベンチに座って、ぼんやりと煙草をふかしていた。それは大通りから一歩入った住宅街の中にある、こじんまりとした公園で、ブランコなどの定番の遊具がいくつかあり、木製のベンチが並び、片隅にあまり清潔とはいえない公衆トイレがある。どこの町にも必ず一つや二つはありそうな典型的な公園である。
 訳あって、いろんな時間帯にこの公園を僕は訪れた。平日の早朝は、近所の工事現場で働く人達が続々と集まってくる。彼らはそこで朝食をとり、煙草を吸い、トイレを済ませて三々五々仕事場へ向かう。その光景は昼休みにも繰り返される。日中は子供連れのお母さん達がやってくる。子供たちを遊ばせている間、ベンチに座って雑談に余念がない。少し離れたところで、おじいさんがうろうろしている。見ると、手に発泡酒の缶を持っており、時々それを口に運んでいる。しばらくそうしていた後で、彼はおもむろにビニール袋を広げ、工事現場で働く人たちが捨てていったごみや煙草の吸殻を拾い始める。そして自転車に乗ってどこかへ去っていく。
 普段は一日中それなりに賑わっている公園も、雨の日には人影がない。僕は近くのコンビニエンスストアで買ってきたコーヒーを両手で抱えるようにして飲みながら、煙草を吸っている。徹夜続きで、頭はぼんやりとしている。自転車で通りかかったおばさんが、ちらりとこちらを見る。疲れきって雨降りの公園で煙草を吸っている僕は、もしかしたら浮浪者に見えたかもしれない。まあ、それはそれで仕方がない。
 通りの向かい側に古びた病院がある。年季の入ったコンクリートの外壁が、暗い冬の空の下で、よりくたびれて見える。その中の一室でさっきまで続いていた多く人達の努力はようやく報われ、その結果、僕はここで半ば放心状態で煙草を吸っている。誰もがほっとして一息ついているその場所へ、そろそろ僕は再び戻らなければならない。その前に、この場所で考えたいことがあったはずなのだが、上手く思い出せない。仕方なくもう一本、煙草に火をつける。
 一つの心配事を何とか乗り越え、ほっとする。そしてしばらくすると、次の心配事がやってくる。人生が続く限り、それは止むことはない。では、つらいかというと、そういうわけでもない。いろいろ起きるから、人生は楽しいのだし、そういう人生を選び取っているのは、そもそも僕自身である。
 僕はゆっくりと立ち上がり、新しい家族の元へ向かう。