道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話
 自分が出演したライブが終わって家路を辿る。その道すがら、いろんなことを考える。その日の自分の演奏の出来不出来やら、客の反応やら、明日の仕事のことやら、まあ大体そんなところだ。人によっては打ち上げに行って、正体をなくして、気がついたら自分の部屋で目が覚めたなんていうこともあるようだが、そういう例外を除いてミュージシャンの帰宅風景というのは静かで、そして少し寂しい。それまでの緊張や興奮から解放されて、いつもの自分に戻っていく時間である。
 昔出演していたライブハウスは、その当時住んでいたアパートの近くを通っているバス一本で行けた。そのかわり帰りはバスが終わってしまうので、電車で大回りして帰ることになるのだが、それが面倒臭くていつも歩いて帰っていた。歩けるといっても、急ぎ足で40分位はかかった。人通りも絶えた暗い夜道を、僕はいつも不機嫌な顔で、ずんずん歩いた。何故不機嫌だったかというと、その当時はいつも不満でいっぱいだったからである。どうして歌が上手く歌えないのか、どうしてギターが下手糞なのか、どうしていつも緊張して失敗してしまうのか、どうしてお客さんが来ないのか。そんなことが頭の中で渦巻いていた。ちくしょう、ちくしょうと口の中でつぶやきながら歩く僕は、怪しい人に見えたかもしれない。それでもアパートに帰り着き、閉店間際の銭湯へ駆け込んで、湯船にぼんやりと浸かる頃にはだいぶ落ち着いてきていて、まあしょうがない、また今度がんばろうという気分になっている。そうしてようやく普段の自分に戻るのである。
 では今はどうかというと、電車を乗り継いで1時間弱という道程である。その間何をしているかというと、もっぱら本を読んでいる。昔に比べて随分余裕ではないかと思われるかもしれないが、抱いている不満は基本的に昔と変わっていない。ただ、歳とともに不満の処理の仕方が上手くなってきただけである。そして昔とは違った悩みも増えてきている。貴重な時間を削り、お金をやりくりし、場合によっては誰かに迷惑を掛けながら我々は歌い続けている。もう自分の感傷的な悩みに浸っているだけでは済まなくなってきている。
 だからライブが終わって、家路を辿る中年アマチュア・ミュージシャンの後ろ姿は、少し寂しい。