道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 親知らずを抜くことになった。炎症がひどいため、まず投薬治療をして腫れが治まったところで抜歯することにした。レントゲンの写真を見せながら医者が説明してくれたところによると、僕の親知らずは真横に生えていて、骨の下に潜り込んでいるため、骨を削ったうえでその下にある親知らずを砕いて取り出すという。まるで地下に埋まっている不発弾を撤去するような話である。不発弾であれば、住民たちは避難することができるが、親知らずは僕の口の中に眠っているので、残念ながら僕は避難することができない。せいぜい麻酔を打って痛みを誤魔化すくらいが関の山である。
 手術当日、椅子に座って医者を待っていると、やってきた医者は開口一番、「今日抜いて大丈夫ですか?」と言った。顔が腫れることがあるので、仕事で人に会うようなことがあるのなら今日抜かないほうが良いと言うのだ。しばらくそういう予定はなかったので、そのまま抜いてもらうことにした。
 麻酔をして、抜歯が始まった。ずっと前にやはり親知らずを抜いたときも思ったのだが、抜歯というのは治療というより工事といった趣がある。骨を削る振動は激しく、歯を砕く音は更にすさまじく、砕いた骨を取り出す時には顎が外れそうな勢いである。結局最後の破片を取り出すまでに一時間弱かかった。途中で麻酔を一度追加した。
 その夜から食事が苦行となった。口の中は腫れ上がり、患部からはじわじわと出血している。とても普通の食事ができる状態ではない。そもそも口が十分に開かず、物を口中に入れることさえままならない。しかし患部の回復のために食事は取れと言う。仕方がないので、朝はゼリー、昼は蕎麦か菓子パン丸呑み、夜はそうめんかおかゆ丸呑みという日々が続いた。
 そして抜歯の翌日からみるみる顔半分が腫れ上がった。最初はそのままにしておいたのだが、あまりに周囲に「大丈夫か?」と言われるのでマスクをすることにした。夜寝ている間に鎮痛剤が切れると朝が地獄である。世の中は猛暑日が続いている。実に憂鬱な日々が続いた。
 二週間後に抜糸し、やっと普通に食事ができるようになった。歯を一本抜いただけで、人間はこんなにもダメージを受けるものかと呆れてしまう。昔読んだ拷問の話で、歯をペンチで一本ずつ抜いていくというのがあったけれど、僕は全く耐える自信がない。べらべら喋っちゃいそうである。