道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

(詳細はお店のHPでご確認ください)
 ライブハウス・コタン
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道草な話

 その駅は、常磐線北千住駅の一つ先にあった。僕は今まで常磐線に乗ったことがないので、北千住駅での複雑な乗り換えに手間取った。そもそも常磐線の各駅停車がなぜ常磐線のホームからではなく、千代田線のホームから発車しなければならないのか、僕にはさっぱり理解できなかった。釈然としないまま、僕は階段を何度も昇ったり降りたりすることになった。おかげで約束の時間に遅れてしまった。
 久しぶりに友人のライブを見に行くことになった。随分遠い場所ではあったが、初めて聞く店だし、無沙汰が続いていたので、思い切って出掛けることにした。何とか駅に辿り着き、改札を出て、見当をつけて歩いて行くと、どこからか懐かしい歌声が聴こえてきた。その声は、ガラス戸一枚でしきられた店の中から聴こえてきた。ガラス戸を開けると、店内にいる全員が(出演者も含めて)僕を見た。それくらい狭いのである。店というより、部屋と言った方がいいような、こぢんまりとしたスペースであった。ビールはステージ(そこで演奏しているから多分そうなのだろう)の後ろにあるショーケースから、出演者が取り出して客に渡している。二階にあるトイレに行くときは、出演者にどいてもらわなければいけないという有り様である。本当はそうっと入って、柱の影からこっそり見物しようと思っていたのだが、こういう店ではとても人目を避けることなんてできない。そこに馴染んでしまうか、諦めて出てくるしかない。幸い客席に知り合いの顔を見つけて、その隣りに腰掛けることができた。目と鼻の先で友人が歌っていた。彼はそんな店の雰囲気がとてもよく似合う。くつろいだ様子で、気持ち良さそうに歌っていた。
 ライブが終わると、そのまま出演者も交えての飲み会に移行する。何故か無料のおでん鍋がテーブルの上の卓上コンロで煮えていて、近くの客がみんなに取り分けたりしている。気がつけば猫が誰かの膝の上でくつろいでいる。何となくご近所の寄り合いに呼ばれたような気分である。
 東京の片隅にあるこんな小さな店で、歌を歌い、それを聴いている人たちがいるということを、僕は今日まで知らなかった。東京に住んでいるほとんどの人がそれを知らないだろう。それをどうこう言うつもりはない。ただ、遠くの町にそういう場所があることを知っていて、折に触れて思い出したりするのは、何となく心愉しいものである。