道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 3月11日、17:30。ほとんどの人が会社待機で残っていた。僕は地図をしばらく睨んで、徒歩で帰宅することを選んだ。正直、どの位時間がかかるかわからなかったが、大体1時間強で着けるのではないかと思い、会社を後にした。一度近くまでタクシーに乗ったことがあり、何となく道順がイメージできていたことも、決断の要因になった。
 品川駅の周辺は人で溢れていた。電車の運行を待っている人、タクシーを捕まえようとしている人。バス停には長い列ができ、歩道を歩くこともままならない。僕は仕方なく他の人々と一緒に車道を歩いた。車は渋滞でほとんど動かないので、それほど危険は感じなかった。ただ、人々の会話には苛立ちや戸惑いがありありと感じられ、車のクラクションもどこか殺気立っているように聞こえた。
 道程の長さを考えれば、ペースを抑えて歩くべきなのだろうが、やはり気がはやるのか、どうしても早足になる。五反田の駅が見えたときには、かなり足がへばっていた。それでもここまで来れたという安心感が僕に新たなエネルギーを与えた。ピッチを落とすことなく五反田駅を通り過ぎた。この辺りから歩道を歩く人が再び増えてきた。この辺りの人達は全体的にのんびりしていて、おしゃべりをしながらゆっくり歩いていた。何となくピクニック気分のように見える。そんな人達を追い越しながら、僕はひたすら歩いた。一体何が僕をせきたてるのだろうか。それはきっと家族を持ったからなのだろう。電話も通じない状況で、やはり一刻も早く家族の無事をこの目で確かめたいという気持ちは強かった。一人なら、僕ももっとその道行きを楽しんでいたかもしれない。家族を持つということはこういうことなのだなと思いながら、休むことなく歩き続けた。
 次第に見慣れた風景が現れ、最寄り駅も通り過ぎた。さすがにペースは落ちてきたが、何とか自宅マンションに辿り着いた。所要時間は当初の想定より多い1時間30分であった。もちろんエレベーターは止まっているので、階段で最上階まで昇った。そこで丁度ガスメーターを点検している大家と顔を合わせた。挨拶もそこそこに部屋へ入って家族の無事を確認すると、体の力が抜けた。
 その後、事態はますます深刻化している。毎日テレビのニュースを見ては、ため息をついている。それでも新しい一日はやってくるし、やらなければならないことが待っている。今はただ、それをやるだけだ。