道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 3月の3連休の最終日の夕方、僕は名古屋駅の新幹線ホームにいた。連休とはいってもこんなご時世だし、旅行客なんてほとんどいないのではないかと高をくくっていたのだが、まるでラッシュ時の新宿駅のホームのような混雑振りである。新幹線ものぞみ、ひかり、こだまと山手線のようなペースで次々にやって来るのだが、どれも寿司詰め状態。僕は指定席をとらなかったことを激しく後悔した。
 しばらく様子を見たのだが、一向にホームから人が減る気配がない。それどころかむしろますます増えているような気がする。僕は行列に並ぶ元気もなく、お腹も空いてきたので、ホームにある立ち喰いそば屋に入ることにした。名古屋といえば、やはりきしめんである。掻き揚げを乗せて550円。決して安くはないが、まあ観光地値段ということなのかもしれない。
 まだ小さい頃に、親戚が豊橋というところに住んでいて、家族で一度遊びに行ったことがある。その時にやはり駅のホームできしめんを食べたのが、僕のきしめんとの出会いであり、最後の記憶である。その旅行の記憶は全く残っていないが、駅できしめんを食べたことだけは憶えている。平べったい麺がスープによく絡んで、きしめんって美味しいなぁと思った記憶がある。そういえば小さい頃、よく駅の立ち喰いそばを家族で食べた。今から思えば、変な家族である。貧乏だったからだろうか。
 久しぶりに食べた立ち喰いのきしめんは、しかしあまり美味しいものではなかった。きっと子供の頃の記憶は、時間とともに美化されていったのだろう。それでもお腹が満たされたことは事実である。それらかやはりホームにある喫煙ブースに行き、缶コーヒーを飲みながらゆっくりと煙草を吸った。
 さて、という感じで改めてホームの行列に並んだ。二本目の列車で、ギリギリ乗ることが出来た。最後尾だったのでドアに押し付けられる格好になった。姿勢を変えることもできない。これは通勤電車ではない。新幹線である。いくらのぞみは速いと言ったって、品川までは1時間30分以上かかるのである。この状態でそれはちょっときつい。僕は苦心惨憺の末、鞄の中から何とか文庫本を取り出すことに成功した。それを読みながら、ただひたすら列車が東京に着くのを待ち続けた。
 品川駅の新幹線ホームの喫煙コーナーで、僕は再び煙草を吸っていた。体中の筋肉が悲鳴を上げている。次からは絶対指定席を取ると心に誓った。