道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 出身の人は怒るかもしれないが、甲府という場所に僕は特に観光地としての魅力を感じない。武田信玄に特に思い入れはないし、葡萄やワインにも特段の興味はない。昇仙峡という景勝地も一度訪れたことがあるけれど、まあ、こんなものかなという感じである。何よりその景色全般が僕の田舎と似たり寄ったりなのである。知り合いでもいれば、通りすがりの旅行者が見ることの出来ない魅力が感じられるかもしれないのだが、そういう人もいない。だから特に訪れる理由がない。ただひとつ、常磐ホテルを除いては。
 物の本の影響もあって、僕はいつか訪れてみたいホテルや旅館が幾つかある。いろんな事情で(主に金銭面で)なかなか実現しないのだが、箱根の富士屋ホテル甲府常磐ホテルは訪れることが出来た。いずれも名門ホテルであるが、比較的距離が近く、尚且つ贅沢をしなければ意外とリーズナブルである。特に常磐ホテルは、実家に帰るルートの途中にあるので、ついでといった感じで立ち寄れるのがいい。そして前述したように、観光をする気がないので、安心してその滞在だけを楽しめるのがいい。箱根なんかへ行くと、庶民の悲しさで、観光せずに帰って来るのは犯罪であるといった強迫観念があるので、どうしても割り切ることが出来ないのである。そんなわけで、ゴールデンウィークの帰省にかこつけて甲府で途中下車することにした。
 このホテル(実際は温泉旅館)の魅力のひとつは、駅から近いことである。近いといっても歩いていける距離ではないので、仕方なくといった感じでタクシーを使えるのがまた嬉しい。そして街中であるにもかかわらず、とてもゆったりとした気分になれるのである。それは何といっても広々とした中庭があり、各部屋がすべてその中庭に面しているからである。僕らが訪れたのは、いずれも新緑の季節で、窓からの爽やかな風に吹かれながら、ぼんやり中庭を眺めているととても幸せな気分になった。
 ただし、どこでも事情は一緒だと思うのだが、良いものを提供してさえいれば客が来るという時代は終わっているので、それなりに経営努力が必要である。前回訪れたときは、中庭に貸し切り露天風呂が出来ていて、それが明らかに不自然でがっかりさせられた。今回再訪してみると、貸し切り露天風呂はなくなっていたが、部屋出しだった朝食が食堂でのバイキングになっていた。冷たいソーセージを食べながら、それでもその佇まいが失われない限り、また訪れてみたいと僕は考えていた。