道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 その日は、冬にしては穏やかに晴れた一日だった。僕は息子を連れて、近所のスーパーマーケットに買い物に出かけた。最近は結構な距離を歩けるようになったので、その日も手を引いてゆっくりと歩いていくことにした。大人の足でも10分以上かかる道程を、更に時間をかけて歩いていく。途中で彼が石を拾ったり葉っぱを眺めたりするおかげで、ますます時間は過ぎていく。もちろんそれは想定済みなので、イライラすることもない。僕は心の広い父親になりすまして、のんびりと歩いていった。
 スーパーマーケットに到着し、買い物(オムツ)をすませて、店の前のベンチでひと休みした。まだ時間は早い。帰りに公園に寄って、少し遊んでいってもいいかもしれない。そう思って立ち上がって歩きかけた時、彼が進行方向とは違う方向を指差していることに気がついた。いくら引っ張っても動こうとしない。彼の指差す方向には、そのスーパーマーケットの二階に上がるための外階段があった。どうやらその階段を昇りたいらしい。彼の階段好きは、ここのところますます加熱する一方である。そして当然のことながら、まだ一人では昇れないので、親が手を引いてあげることになる。まあしょうがないな、と僕は諦め、彼に付き合うことにした。
 ほとんどよじ登るようにして二階まで上がると、そこにベンチがあった。やれやれといった感じでそこに腰掛け、しばらく前の道を走る車を眺めてから、再び彼の指示に従って階段を降りた。すこし時間はかかったが、まだ余裕はある。ところが階段の昇り降りは、その一回では済まなかったのである。それから一時間近く、「その階段を昇る」→「ベンチで休憩する」→「その階段を降りる」を延々と繰り返す羽目になったのである。途中で強制的に終了させるという選択肢もあったのだが、その時はその対価(号泣&大暴れ)を払う気力がなかったのである。辛抱強く彼に付き合い、ようやく彼が帰るそぶりを見せ始めた時、僕にとってとても不幸な出来事が起きた。そのスーパーマーケットの外階段があと二箇所存在することに彼が気づいてしまったのである。勿論、すべての階段を満足いくまで堪能することになったのは言うまでもない。そして、疲れ果てて爆睡する彼を左手で抱え、右手にオムツをぶら下げて、永遠とも思える我が家への道程を僕は辿ることとなった。他の店で買い物をする予定もあったのだが、そんなことは既に忘却の彼方である。
 家に辿り着いたときには、すっかり夕暮れの気配が漂っていた。