道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

(詳細はお店のHPでご確認ください)
 ライブハウス・コタン
 ホームページはこちら
          

道草な話

 「ここから先は通行止めだよ。」道端で休憩している作業員の一人がそう言った。確かに道路には棒が渡されて、車が入って行けないようになっている。僕は彼に訊ねた。「歩いたらどのくらいかかりますかねえ。」「まあ、ゆっくり行って30分位じゃないかな。せっかくだから行ってみたらどうかね。歩いて行くぶんにはかまわないと思うよ。」地元の人らしいその作業員は、気の毒に思ったのかそう言った。「何も通行止めにするこたぁないんだがね。」彼はそう言い残すと、どこかへ立ち去った。僕は手前に止めた車に戻ってそのことを告げた。結局そこに車を置いて、みんなで歩いていくことにした。
 短い夏休みをとって、慌しく実家に帰った。どこかに遊びに行こうという話になり、以前に一度行ったことのある山の中の滝を見に行くことにした。そこはあまり人も訪れない場所なのだが、なかなか見事な滝を間近で眺めることができる。滝があるせいか夏でも涼しく、すがすがしい気分になれる場所である。車で細い山道を随分登って、さあもう少しというところで通行止めの看板にぶつかったのである。ここまで来て回れ右をして帰るのは、あまりにも空しい。そこで歩いてみることにしたのである。
 小さい息子には、まだちょっと無理かなと心配していたが、彼は思いのほか機嫌が良く、歩きにくい山道をどんどん登っていく。僕は内心ホッとして、彼の手を引いて一緒に歩いていく。ところどころ道が崩れて補修してあるが、人が通るのに危険なほどではない。
 見覚えのあるダムを過ぎてしばらく行くと、視界が開けて、その先に滝が姿を現した。遠くから見ても、今年の水量はなかなかのものである。山の中が静かなせいか、その水音は相当に大きく響いている。飛沫がかかるほど近くの河原まで息子を連れて下りてみたが、あまりうれしそうな顔はしなかった。怖いのかもしれない。それでも目的が達成できたので、我々は満足し、記念写真を撮って来た道を戻ることにした。さすがに帰りは疲れたのか、歩くことを拒否する息子を交代で抱きかかえながら山を下った。
 最初の場所まで戻ると、まだ作業員たちは休憩を続けていた。この調子では通行止めが解除されるのは相当先になりそうである。そういったのんびりしたところも、田舎らしいといえば田舎らしい。
 時々、誰もいない山の奥で、流れ続けている滝のことを思い出す。そこではどうどうと水音が響いている。それなのに、とても静かである。