道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話

 僕はイルカのジャンプに弱い。イルカたちが編隊を組んで、鮮やかに水面から飛び出す時、驚くのでも喜ぶのでもなく、じわっと涙腺が緩んでしまうのである。それは悲しみの涙ではなく、たぶん感動の涙である。でも周りを見渡しても誰も泣いている人なんかいない。だから恥ずかしくなって、なるべく人に気づかれないように小さくなっている。そして、今度こそ泣かないぞと言い聞かせてみるのだが、次のジャンプでもその次のジャンプでも涙が出てくるのである。誰かと一緒の時なんかとても困る。
 夏休みに妻の実家に帰り、みんなで水族館に行った。どこの水族館でもそうなのだが、やはり一番人気はイルカのショーである。客席は満員で、前の方の席に座っている人達は雨合羽を着こんでワクワクしている。プールの水が盛大にかかるのを楽しんでいるのだ。空いている席を探して、ばらばらに座った。僕は一人で後ろの方の席に腰掛けた。しばらくしてイルカショーが始まった。いつもそうなのだが、最初のジャンプまで僕はそのことをすっかり忘れているのだ。そしてイルカがジャンプした瞬間にじわっときて思い出すのである。そうだ、イルカのジャンプに弱かったのだと。
 たぶん、その原因のひとつは映画「グラン・ブルー」である。フリー・ダイビングの選手である主人公は人に心を開くことが極端に苦手なのだが、イルカとだけは心を通わせることができる。そして、彼が世界記録を樹立して水面に飛び出した瞬間に、遠く離れた場所にいるイルカたちが一斉にジャンプするシーンがある。それはその映画の中で僕が一番好きなシーンである。だからイルカのジャンプを見ると、そのシーンを思い出してじわっと来るのではないかと思う。言ってみれば条件反射のようなものである。
 水族館のイルカたちは幸せなのだろうか?それとも広大な海原を懐かしんで、鬱々とした日々を送っているのだろうか?言葉の通じない僕らには確かめようもない。でもイルカショーを見ていると、彼らもとても楽しそうに演じているように思えてくる。少なくとも、ご褒美の魚欲しさに必死に演じているようには見えない。それは僕等の幻想だろうか?
 インターネット上であらゆる情報が飛び交うこの時代に、幻想を抱くことは難しい。全ての物事に裏があり、誰かの思惑が潜んでいるように思えてくる。でもそんなことばかり考えていると、人生楽しくない。自分が肌で感じたものが自分にとっての真実である。それでいいんじゃないかと思う。