道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

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 ライブハウス・コタン
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道草な話
 子供の頃、僕は二回の引っ越しを経験している。一度目は小学校に上がる前のことで、そのときの記憶は全くない。引っ越すまで暮らしていた家の様子も、町の景色もすっかり忘れてしまっている。うっすらと断片的な記憶が残っているだけである。それも本当の記憶かどうか怪しい。
 二回目の引越しの時は、小学校六年生になる三月のことである。ここまで来ると大分記憶が鮮明になってくる。小学校の大半を過ごしたその町を僕は大変気に入っていたので、引っ越すと聞いた時は大変ショックだった。仲の良い友達もいたし、密かに好きな女の子もいた。しかし、一人で残るわけにも行かず、泣く泣くその町を去ることになった。その時に引っ越してきたのが現在の実家であり、初めて父が手に入れたマイホームである。それから東京に出てくるまで、僕はその家で暮らすことになった。
 東京に出てきてからは、何度も引越しを経験した。一人暮らしの時は荷物も少なく、結構気軽に引っ越していた。独身の時に五回、結婚してから一回、そして今回の引越しが七回目である。特に結婚してからは荷物もぐっと多くなり、また時間の制約も増えて、引越しはかなりハードなイベントになった。そして子供ができてはじめての引越しとなった今回は、さらに過酷さを増した。何より痛感したのは、体力の衰えである。連日荷造りが深夜に及ぷと、頭が朦朧としてくる。昔は出せた「火事場のくそ力」のようなものを自分の中に探してみるのだが、どこにも見当たらない。そして持病の腰痛と相談しながらの作業が続く。引越し当日の朝まで、そんな作業が続いた。しかも、今回はそれまで住んでいたマンションの取り壊しに伴う、仮住まいのための引越しである。我々の選んだ転居先がまだ空かないため、やむを得ず不動産屋に紹介されたマンションへの短期滞在である。おそらく数ヶ月後に再び引越しが待っている。それを思うと今から気が重い。
 荷造りの最中も、仮住まいのマンションに移ってからも、息子は楽しそうである。恐らく非日常な感じが、彼をそうさせているのだろう。しかし僕がそうだったように、生まれ育った家の記憶はほとんど残らないに違いない。まあ、それが寂しかったかと言われるとそうでもないのだけれど。
 次の家で、我々三人の本当の新たな生活が始まる。どんな暮らしが待っているのかは、神のみぞ知る。できればしあわせな日々であることを願う。