雨の動物園は、やはり空いていた。僕らは傘をさして歩いていた。雨は降ったり止んだりで、そのたびに息子は雨合羽のフードを上げたり下げたりしていた。そのうち面倒くさくなったらしく脱いでしまった。
この動物園には、息子がまだ幼稚園に入る前に一回来たことがある。その時、彼はわけもなく不機嫌で、泣いてばかりいた。モノレール待ちの行列でも泣き続け、パンダの人形の前で記念写真を撮る際には、泣き叫ぶ彼を押さえつける羽目になった。僕らはへとへとになって、動物園から出た。駅へ向かう途中、相変わらず泣き叫ぶ息子を見て、通りがかったおばさん二人組に「あらあら、お父さんしっかりしないと!」と笑いながら言われた時、頭の中で「ブチッ」という音がした。その二人を追いかけようとする僕を、妻が必死に止めた。
それ以来の動物園である。さすがにもう息子も泣いたりはしない。ただ、以前来た時もそうだったのだが、動物を見て目を輝かせたり、歓声を上げたりはしない。何となく淡々と見ていくのである。でも動物園に行きたいという。そして出てきてから聞いてみると楽しかったという。この辺の感覚はどうもよくわからない。
しかし動物園というのは不思議なところですね。見る方は楽しいけれど、見られる方はたまったもんじゃないと思います。しかも同じところにずっといなきゃならない。普通に考えたら、ストレスだらけですね。それとも三食昼寝付きで幸せなのでしょうか?よくわかりません。
その日、息子が一番面白かったのはゴリラだそうです。僕も同感でした。彼らを見ていると、実はいろいろとわかっているんじゃないかという気になってきます。何となくですが。