道草の友(シンガーソングライター・大久保雅永の日々)

ライブ情報: 4/13(Sat)open:17:30 start:18:00 ライブハウスコタン(20:00頃出演)

(詳細はお店のHPでご確認ください)
 ライブハウス・コタン
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道草な話

 12月18日、日曜日。新宿の百貨店で買ったバーボンウイスキーを手土産に、僕は都営新宿線曙橋駅に降り立った。もうずいぶん長いこと東京に住んでいるけれど、この駅で降りたのは初めてのことである。地図の記憶を頼りに出口を出ると、そこは繁華街ではなく、オフィスビルが建ち並ぶどちらかというと閑散とした通りで、少し歩くとまるで取り残されたかのような商店街がひっそりと佇んでいた。日曜日の夜のせいか、人通りも少ない。一抹の不安を抱きながらその商店街を進んでいくと、目印の花屋が現れた。そこを右折すると、すぐに見慣れた文字が目に入ってきた。  「コタン」、それは僕がかつて歌を歌っていた場所である。以前と違い、今度は地下1階である。階段を下りていくと、ちょっとオシャレな店の入り口が見えてきた。しかし、それは別の店のようだ。あたりを見回すと、ボイラー室の入り口のような不愛想な鉄のドアが目に入った。よく見ると「コタン」と書いた紙が張り付けてある。そうっと開けてみると、資材置き場のような場所があり、更にドアがあった。中からは賑やかな雰囲気が伝わってくる。そのドアを開くと、そこはもう、コタンだった。
 勿論、新築だし、レイアウトも違うし、照明だって違う。地下だから当然あの窓もない。それなのにそこは紛れもなく「コタン」なのである。僕にそう感じさせたのは、その空間が纏っている空気である。集まった人々の醸し出す雰囲気や、店長の熱い想いが綯い交ぜになって、僕にそう思わせたのである。それにしても、大盛況だ。正直、こんなに人が集まっているとは思っていなかった。改めて僕は、コタンという店の力を思い知らされた。
 店長はステージで慌ただしく立ち働いていた。顔が少しやつれたようだ。この日を迎えるために、彼はきっととてつもなく苦労したに違いない。その苦労は恐らくこれからも続いていくだろう。それでもやはり体中から、店をやる喜びが溢れている。
 出来立てのステージで、8ヶ月ぶりに人前で歌った。お世辞にも褒められた出来ではなかった。それでも、また始まるんだという思いが僕の胸を満たしていった。8ヶ月の間に、僕自身もいろんなことがあった。それでも、なんとかまたこの場所に帰ってくることができた。この新しい店で、またライブをやり続けていく。それは僕にとって何の疑問も抱かない事実である。
 いい歌と、拍手と、涙と笑いと、楽しいおしゃべりでこの空間が満たされていくことを願う。その一翼を、僕も担いたい。